新宿NSビルスカイクリニック

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梅毒を考える

(Introduction)
梅毒はパートナー同士が性交渉をすることによって感染する性感染症です
抗生剤が発見される前は不治の病として恐れられていましたが、1944年イギリスの医学博士アレキサンダーレミング博士がペニシリンを開発してから、梅毒を完治することができるようになり、現代の日本においては性病に対する国や社会の取り組みの効果もあって、その感染者数は激減し、近年まであまり見かけないような稀な病気になっていました。ところがここ数年間で日本における梅毒の感染者数が激増しています(10年前までは日本全体で500人足らずだった感染者数が今年は5000人を超える勢いです)
梅毒の感染拡大を抑えるために国や行政の早急な取り組みが必要ですが、安全で健康的な社会を創るためには、人任せではなく、先ず自分達がこの梅毒という病気の実態をより正しく理解することが重要であると思います。
(梅毒について)
梅毒とは一体どのような病気なのか?その具体的な特徴についてご紹介していきましょう
1. 梅毒はスピロヘータ門の梅毒トレポネ-マ(以下T.P)という細菌が体内に侵入して発症する感染症です
2. T.Pは他の性病に比べると感染力の高い病原体です。性交だけでなく、病原体がいる部位とのコンタクト(キスや粘膜のコンタクトなど)でも感染する可能性があります
3. またT.Pは人体の免疫を逃れる機構(免疫抗体が働かない)を有していて、一度体内に入るとゆっくり広がり、やがて血流に乗って全身に広がっていきます。また免疫が効きにくいため、一度完治しても再感染する恐れもあります
4. 梅毒感染による症状と病気分類
病期は早期で完治可能な1期2期と後遺症の残る可能性のある3期4期に分かれます
その症状は多彩です。初期には局所の硬結(できもの)や糜爛や潰瘍、やがて全身に広がるとリンパ節の腫脹や特徴的な皮疹(バラ疹)や紅斑を呈します。そして病状が更に進行すると血管や神経など全身に病変が伸展して後遺症が残るようになります
5. 梅毒の検査、診断に関しては基本血液検査によってなされます
1)T.Pによって感染することによって増加するリン脂質(カルジオリピン)に対する抗体を測定するSTS法(RPR法);これが梅毒の活動性の指標となります。また単独でRPR法が弱陽性の場合、膠原病など擬陽性の可能性もあります
2) T.Pに対する特異的抗体を測定するTPHA法;これはT.Pに対する特異的抗体
であり、現在の感染かもしくは今まで感染したことのある既往の可能性があります
6. 治療は抗生物質の投与が著効します。ペニシリン系合剤もしくはミノサイクリン系 
抗生剤の投与にて2期までなら後遺症なく1~3ヶ月の投与で根治します
(結論)梅毒は決して不治の病ではありません。ちゃんと予防し、感染してしまった場合には、早期発見、早期治療をすれば完全に治ります。
だからこそ全く意識を持たなかったり、過剰に恐れたりすることが恐いのです
(考察)
なぜ近年、日本において梅毒が急に増加したのでしょうか?またどうしたらこれから梅毒の蔓延を防ぐことができるのでしょうか?今回の梅毒流行の確かな原因については国や専門施設レベルの原因究明が必要ですが、前に述べた梅毒の特性から考えて、そこには現代の日本の社会状況の変化が関与している可能性があります。もしかしたら今の日本の経済状況の悪化やそれによる性の営みの変化が今回の流行に影響を及ぼしていることも伺われます。個人個人が梅毒を意識して正しい知識を持って、行動することでこの感染症はコントロールできるのです。もし梅毒に罹患してしまった場合、自分自身の健康を損なうだけでなく、大事なパートナーや家庭をも深く傷つけてしまう恐れがあります。それがパートナーシップの崩壊や家族の崩壊になり、やがては社会の崩壊にも繋がりかねません。私達個人個人が梅毒と言う問題を通して性の在り方や人の生き方や社会の作り方を改めて考える必要があるように思えます